平成17年 年頭所感 社団法人日本電機工業会会 長 森下洋一
平成17年の新春を迎え、謹んで新年のお慶びを申し上げます。年頭にあたり所感の一端を申し上げ新春のご挨拶とさせていただきます。
・はじめに
我が国の経済は、企業収益が改善し設備投資や
個人消費が増加しているものの、輸出と生産は弱含んでおり、景気回復の継続に一部弱い動きがみられます。先行きについても、国内民間需要が増加しているものの、原材料および
原油価格の高騰が内外経済に与える影響や世界経済の動向等には留意する必要があります。
当工業会の会長に就任して初めての正月を迎えましたが、これまで大変厳しい状況にありました私ども電機業界も、景気回復に対応して、ようやく業績回復の兆しが現れて参りました。今年はこの流れを本格的なものに発展させたいと、新年を迎え、改めて決意を新たにしているところです。
・電機業界の概況と主要課題への取り組み
重電分野では、電力会社の設備投資や
公共投資などの抑制が継続している中で、民間設備投資は増加しており、特にFA・汎用電機品は、生産性向上を目的とした合理化投資や老朽化設備のリプレース、省エネ化により、製造分野向けが堅調に推移しています。
更に、中国・
アジア諸国の経済活動の活発化や米国経済の回復等もあり輸出が牽引となって、2004年度の重電機器生産額は、7年ぶりに、前年を上回る見通しです。今後も海外、特に成長の著しい中国やアジア、米国に対する輸出が更に拡大することを期待しております。
家電(
白物家電)分野では、昨年は“猛暑効果”によりルームエアコン、冷蔵庫の国内出荷が大幅に増加したことに加え、高齢化や共働き世帯の増加などの社会構造やライフスタイルの変化により、洗濯乾燥機、食器洗い乾燥機、クッキングヒーターといったユーザーニーズに合致した新規・高付加価値商品が好調に伸長して需要が拡大しました。その結果2004年度の家電機器国内出荷額は、4年ぶりに前年を上回る見込みです。今後も引き続き、景気回復による消費マインドの改善により需要拡大が継続することを期待しております。
年頭に当たり、電機業界が当面する課題のうち、主要課題3点「エネルギー問題への取り組み」「地球環境問題への取り組み」、「国際市場への対応強化」について申し述べます。
1.エネルギー問題への取組み
わが国のエネルギー政策の基本は、「安定供給の確保」、「環境との適合」、「市場原理の活用」の三つの課題をバランスよく達成することです。この課題についての検討結果が、昨年10月に総合資源エネルギ−調査会需給部会で「2030年のエネルギー需給展望(中間とりまとめ)」としてまとめられました。
電機業界では、重電機器や家電機器の
省エネルギー化を推進するとともに
自給率の改善と電源の分散・多様化のために、安全確保を大前提に
原子力発電を推進するとともに、火力・
水力発電の高効率化、新エネルギーの実用化・普及を推進して参ります。
特に新エネルギーにつきましては、2003年4月より、RPS法(
電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)が施行されておりますが、当工業会としても
燃料電池、
太陽光発電、
風力発電などの新エネルギーの実用化・普及推進に注力しております。
燃料電池は、昨年、国が策定した「新産業創造戦略」の中で「先端的な新産業分野」の一つとして位置付けられており、家庭用
コージェネとして注目されている固体高分子形
燃料電池の実用化と導入促進に向けて、信頼性向上やコストダウンなどの実用化のための技術開発を進めて参りましたが、今年、実用機が市場に導入される予定です。また、最近注目され始めた携帯機器用超小型
燃料電池についても国際標準化や規制適正化等の活動を推進して参ります。
太陽光発電は、順調に普及しており、昨年度の我が国の発電素子の生産量は世界マーケットの約半分のシェアを占め5年連続世界トップにあります。
太陽光発電に係わる国内外の認証制度の定着等、世界を視野に入れた諸施策を着実に推進して参ります。
風力発電も、設備の普及が急速に進みつつあり、国内・国際標準化活動を通して、我が国の風況・自然に適合した風車の開発や小型
風力発電システムの安全基準の整備等の活動を推進して参ります。
2.地球環境問題への取り組み
まず、
地球温暖化防止については、昨年の国の審議会における、
地球温暖化対策推進大綱(新大綱)の第1ステップ(2002〜2004年)の見直し評価を受けて、本年は新大綱の見直しや省エネ法の改正が行われます。また、昨年のロシアの
京都議定書批准により本年2月には同議定書が発効し、
地球温暖化対策推進法が施行され、
地球温暖化防止対策の推進が強く求められます。産業分野では自主行動計画の透明性、蓋然性が、民生や運輸分野では大幅な
炭酸ガス削減のための対策が必要となります。
当工業会では、製造段階の
省エネルギー推進に関する自主行動計画を策定し
炭酸ガスの削減に取り組むと共に、民生(家庭)分野において、世界最高レベルの省エネ家電製品の開発と普及を積極的に推進して参ります。
循環型社会構築については、EUではWEEE(廃電気・電子機器リサイクル)指令や
RoHS(有害物質使用規制)指令が施行され、REACH(新化学物質規制)指令やEuP(エネルギー使用製品エコデザイン規制)指令が議会で審議されております。また、中国や米国でも同種の法規制が検討されています。国内では、2006年に
家電リサイクル法の見直しが行われますが、当工業会は製品含有化学物質、環境適合設計、家電リサイクルなどに関する法規や制度の見直し検討に参画して参ります。
当工業会では、「電機産業の活力を維持・向上しつつ、事業活動に伴う
環境負荷低減を推進すると同時に、ライフサイクル全体での環境配慮製品を創出する」という基本理念に則り、
省エネルギーや
温室効果ガス削減等の
地球温暖化防止、産業廃棄物削減や有害大気汚染物質削減の自主行動計画を積極的に推進するとともに、環境配慮製品の創出・普及にむけて、環境適合設計とその評価方法、情報開示の在り方などの検討に積極的に取り組んで参ります。
3.国際市場への対応強化
これからの重電分野の主な国際市場としては、アジア、特に中国における電力設備、交通システム等の社会インフラと米国における電力設備が挙げられます。3年後に北京で開催されるオリンピックに向けて、
中国経済の一層の発展が予想される上に、現在でも上海や広州等の大都市部における電力不足が問題となっており
原子力、火力、
水力発電の大規模な設備投資計画があります。米国においては、発送電設備の整備・更新が進められる中で
原子力発電所の建設再開の動きも見られます。家電部門では、特に中国への生産移転が一層進展し、中国からのアウト・インの増加が予想される一方、経済発展に伴い高級家電市場としての成長が期待されます。
このような市場で勝ち残るためには、更なる国際競争力の向上が求められます。そのためには、内外企業との戦略的連携等による事業の再構築、SCMやIT活用等による競争力強化、新技術・新製品の開発と新規事業の開拓を中心とした高付加価値の創出、知的財産に関する戦略的取り組み、規格、基準等の国際標準および適合性評価システム構築の推進等を更に進める必要があると考えております。
また一方で、現在、日本、アセアン、中国、韓国を含む東アジアにおいて、将来的には東アジア経済共同体も視野に入れた
FTA(
自由貿易協定)/
EPA(
経済連携協定)締結の動きが活発化しています。これらの
FTA/
EPAの進展に伴って、アジアでの企業戦略を見直す必要があります。即ち、それぞれの企業では
自由貿易域内での輸出・販売機能・体制の強化、域内で重複する生産拠点の集約化、相互供給・補完体制構築、現地市場向け製品の設計開発機能強化、地域統括機能強化といった全社最適の視点での地域戦略を構築することが必要となって参ります。当工業会でも、これらアジア地域の国々と、相互に統計、規格・標準、環境規制等の情報を共有するため、各国の電機工業会との交流を推進しております。例えば中国とは一昨年に家電関係、昨年は重電関係の工業会とそれぞれ友好協定を結びましたが、今後も業界全体の国際事業展開のための支援活動を積極的に推進して参ります。
・おわりに
私ども電機業界は、世界経済が上向き基調にある中、業績の回復を確かなものとするために、上記をはじめ、重要課題に積極的に取り組んで社会的責任を果たして参ります。
昨年11月には、半世紀振りに当工業会の新会館が竣工致しましたが、これを良い契機として気持ちを新たにして、これらの諸課題に一丸となって取り組み、更なる業界の発展を目指して努力して参る所存であります。